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MENTAL HEALTH - 2024.08.12

メンタルケアPLUS 第1回「メンタルヘルス セルフケア編ー睡眠の生理と習慣を見直してみる」

リカレントメンタルヘルススクールの専任講師・蔵屋鉄平先生による連載「メンタルケアPLUS」では、メンタルケアに関する基礎知識やセルフケアの方法などカウンセラーやカウンセラーを目指す皆さんにとって役立つ多彩な情報をお届けします。

うつ病などメンタル不調からの回復に限らず、メンタルヘルスを保持・増進していくためにもっとも重要なセルフケアは、生活リズムの安定を図ることといえるでしょう。そのためには規則正しい食事や運動も欠かせませんが、もっとも基本になるのは「睡眠-覚醒リズム」です。第1回目の今回は、「メンタルヘルス セルフケア編」として、睡眠の生理と習慣をテーマにお届けします。
「睡眠-覚醒リズム」を安定させるために、睡眠の生理や生体がもつリズムを学び、そこから日常生活でできる工夫を考えていきたいと思います。

実は難しい「睡眠の定義」

どこの国のどんな人であっても、「私は眠ったことがない」という人はいないはずです。睡眠とはそれだけ身近で当たり前の行動ではありますが、あらためて「睡眠とは何か?」と問われると、これを説明するのはなかなか難しいのです。

では、いくつか睡眠の定義を挙げてみましょう。たとえば「環境に対する反応性と環境との相互作用が低下した状態であり、容易に回復しうるもの(出典:ベアーほか(2007)『神経科学―脳の探求―』西村書店)」や、「人や動物の内部的な必要から発生する、意識の一時的低下現象であり、必ず覚醒可能なこと(出典:堀忠雄編著(2008)北大路書房)」などが挙げられます。

いずれも回りくどいような、歯切れの悪いような印象ではないでしょうか。ですが、それだけ明確な定義が難しいということです。共通するポイントは「意識低下」と「回復可能」ということなので、とても簡単にいってしまえば、「睡眠とは、意識的な言動はみられなくなるけれど、決して死んでいるわけではない」現象といったところです。

睡眠段階と睡眠周期「睡眠の前半で深い睡眠をとること」

睡眠は、脳波・呼吸・心拍などの生理的な指標に基づいて、睡眠段階1~ 4とレム(rapid eye movement; REM)睡眠に分けられます。睡眠段階1~4は総称してノンレム(Non-REM; NREM)睡眠ともいわれます。まずは、それぞれの特徴を以下に示します。

睡眠段階

[睡眠段階1]

− 閉眼安静時に出現するα波が消失
− 緩徐眼球運動(slow eye movement; SEM)が出現
− 夢と似た心理体験である入眠時心像がしばしば発生
− 睡眠感が乏しく呼びかけなどに対しても応答可能
− いわゆる「うとうとした」段階

[睡眠段階2]

− ゆっくりとした脳波が増加し、時折、紡錘波という律動的な波型を示す
− SEMが止まり、呼吸が規則正しくなってくる
− 呼びかけなどへの応答が低下し、睡眠感が生じる

[睡眠段階3・4]

− 高振幅のδ波(徐波)が出現
− δ波が20~50%の場合が睡眠段階3
− δ波が50%以上の場合が睡眠段階4
− いわゆる「深い睡眠」であり、応答性は著しく低下
− 脳波の特徴から、両者を合わせて「徐波睡眠」という

[REM睡眠]

− 脳波は覚醒期や睡眠段階1と類似
− 骨格筋の緊張が著しく低下
− 急速眼球運動(REM)が出現
− 夢はREM睡眠中にみているといわれる

睡眠周期

入眠すると、これらの睡眠段階が周期的に交替して出現します。つまり、睡眠段階1、2、3、4と深くなっていき、睡眠段階3、2、1、REMと浅くなっていく周期を示します。
 

 
この睡眠段階の推移を睡眠周期(sleep cycle)とよび、1回のNon-REM睡眠(睡眠段階1~4)とREM睡眠をあわせると約90分になります。したがって、一晩の睡眠時間が7時間程度だとすると、睡眠周期は4~5回繰り返されることになります。

90分周期に合わせて目覚まし時計をセットするとスッキリ起きられるといわれますが、それはこの睡眠周期を考慮した工夫をしているというわけです。

睡眠周期は一晩で4~5回ほど繰り返されますが、入眠後の時間経過とともにその内容が変化していき、睡眠段階の出現の仕方が異なってきます。つまり、90分周期の中で出現する睡眠段階の割合が変化するのです。

入眠直後からの睡眠前半では「深い睡眠(徐波睡眠)」の割合が多く、後半では「浅い睡眠(睡眠段階2とREM睡眠)」の割合が多くなるという変化を示します。つまり、入眠直後の深い睡眠から、覚醒に向けて少しずつ浅い睡眠へと移行していくのです。そのため、熟眠感を得るためには、睡眠前半に「深い睡眠(徐波睡眠)」をしっかりとることがポイントといえます。

睡眠時間と性格特性

一般に7時間程度の睡眠が適切であるといわれていますが、人によって「ちょうどよい睡眠時間」は異なるでしょうし、その時々の体調や生活環境によっても変わるでしょう。ですから、自分にとっての最適な睡眠時間を把握するのはなかなか困難です。

手がかりとしては、日常生活において、日中の眠気や居眠りがないか、また必要な作業を遂行するにあたって能力や生産性の低下が生じていないかということが挙げられます。こういった支障が生活の中で生じていなければ、ひとまず睡眠が不足していることはないと考えてよいのではないでしょうか。

必要な睡眠時間に個人差があることは、経験的によく知られています。長い睡眠を必要とする人もいれば、短い睡眠で十分に眠ったと感じられる人もいます。一般に、睡眠時間が長い人を長時間睡眠者(long sleeper) 、短い人を短時間睡眠者(short sleeper)といいますが、前者はだいたい9時間以上、後者は6時間以下の睡眠時間の人を指すことが多いようです。

このような習慣的な睡眠時間から、その性格と行動を調査した研究(Hartmannら;1971・1972)によると、long sleeperは神経質で不安傾向が高く、内向的、非社交的、抑うつ的などの特徴をもち、short sleeperは外交的、社交的、活動的などの特徴があったそうです。つまり、long sleeperは「心配性な人」、short sleeperは「くよくよしない人」であるというのです。

一方で、同時期の似たような研究(Webb & Fried;1970・1971)では、睡眠時間の長短で性格特性に違いはなかったという結論を述べているので、実際のところ睡眠時間から人の性格をパターン化するのは無理があるようです。
睡眠時間から人の性格を知るのは難しそうですが、その日ごとの睡眠時間が気分や日中の活動に少なからず影響はしているはずです。ですから、自分の体調や生活の変化を感じ取り、そこから自分の睡眠習慣を見直すことは大切なセルフケアといえるでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回はメンタルケアPLUS の第1回目「メンタルヘルス セルフケア編―睡眠の生理と習慣を見直してみる」をお届けしました。
毎日の生活を振り返り、睡眠の習慣を見直すことの大切さを改めて実感された方も多いのではないでしょうか。
次回もぜひ楽しみにしていてくださいね。

 

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この記事を書いた方のご紹介

蔵屋鉄平(リカレントメンタルヘルススクール専任講師)

リカレント メンタルヘルススクール専任講師
公認心理師/精神保健福祉士
東京都内のメンタルクリニックで休職者の復職支援(リワーク)や、復職後のフォローアップ支援に従事している。

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