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MENTAL HEALTH - 2022.11.21

メンタルケアPLUS 第3回「メンタルヘルス セルフケア編ー睡眠環境」

前回の記事では、生体リズムを考慮して睡眠-覚醒リズムの安定を図るために、光による身体的機能への影響を考慮したセルフケアの工夫から考え始めてみました。

生体リズムなど身体的機能への影響は、光以外にも考慮すべきことがいろいろとありますので、今回からは光以外で工夫できそうなことを考えていきましょう。まず重要なのは体温です。

体温の変化を意識した温度調節

以前の記事でお伝えした通り、私たちの体温は概日リズムによって±0.5℃程度の幅で変動しています。明け方に最低体温になると徐々に体温が上昇し始め、夕方から夜にかけて最高体温となり、また明け方に向けて体温が低下していくというリズムを示します。

体温のリズムを意識する

スムーズな入眠のためには、この体温のリズムを意識することがとても重要です。夜間の就寝前から入眠にかけての時間帯、つまり20~21時頃は体温の低下が始まっています。この体温の低下は、身体を休息状態にしていき、眠気を引き起こすといわれており、入眠や睡眠の維持にもとても重要となります。ですから、この体温低下のリズムを損なわないことがスムーズな入眠のためのポイントといえます。

ちなみに、赤ちゃんは眠たくなると手足が温かくなりますが、これは体温を下げるために、体内の熱を逃がしているというわけです。眠りにつくために、体温の低下が重要であることがよくわかります。

では、具体的に考えてみましょう。睡眠環境としては、体温低下を損なわないような室温の調整や、局所的に頭部を冷やすといったことが効果的です。

適な寝床内気候条件

季節的に安定した睡眠が得られやすい春・秋の快適な寝床内気候条件であれば、温度32~34℃程度、湿度45~55%程度といわれています。これらの快適条件から温湿度が高くても低くても、深睡眠やREM睡眠の減少、覚醒の増加などの影響が生じると考えられています。

とはいっても、快適な温湿度の体感には個人差がありますし、寝床内の温度や湿度を細かく気にして測っていたら、かえって眠れなくなるかもしれません。自分にとっての適温を工夫することができればよいでしょう。

おそらく、就寝した際に汗ばむような温度は少し高すぎるかもしれません。汗は体温を下げようとする身体の働きですから、汗をかく必要のない程度の温度調節であれば、それが妥当なところでしょう。また、夏場などどうしても室温が高くなってしまう場合は、冷却枕や冷却シートで頭部を冷やすと入眠を助けてくれます。

起床時は、就寝時とは反対に体温を上げることが重要です。そのためにもっとも大切なことは、しっかりと朝食を摂ることです。朝食を摂って内臓の活動が起こると、それによって得られる熱が体温を上昇させます。生体リズムに合わせて、身体が体温を上昇させるための準備運動といえるかもしれません。

中枢時計

ここで、生体リズムを司る生物時計について補足しておきたいと思います。

以前、生物時計は視交叉上核とよばれる脳部位にあり、光刺激によって、生体リズムを環境に対して時刻合わせ(同調)していると説明しました。もう少し詳しくいうと、これは生物時計のうち中枢時計(Master Clock)とよばれるものです。

実は生物時計の機能は、脳だけでなく、全身の臓器にも備わっていることが知られており、これらは末梢時計(Peripheral Clock)とよばれます。全身の末梢時計は、自律神経系や内分泌系を介して中枢時計によって同調されているのですが、さらに中枢時計以外の因子(刺激)によっても同調していることが知られています。そのうち消化器系の臓器である肝臓では、食事が末梢時計の同調因子になっているといわれています。

それを踏まえて話を元に戻しましょう。

朝食を摂る

起床後にしっかりと朝食を摂るということは、体温の生体リズムに合わせて体温上昇を促すだけでなく、全身に備わる末梢時計の時刻合わせをしているということでもあるのです。

朝食を摂ることが健康的な生活リズムのために重要であることは、経験的によく知られています。この習慣は、ただ空腹を満たすということだけでなく、生体リズムが正常に刻まれるために、とても大切なものだったということなのです。そのほかに体温を上げるためには、体操や散歩などの運動や、入浴も効果的だといえるでしょう。

スムーズな入眠のための夜間の活動(運動・入浴)

就寝する2~3時間前に軽い運動(ストレッチなど)で適度に身体をほぐすことや、入浴することが、スムーズな入眠には効果的です。これらの活動が、生体リズムに伴う生理的変化やリラクセーション(副交感神経活動)を促進しますが、それによる入眠の促進だけではなく、睡眠初期の徐波睡眠(深い睡眠)も集中して出現するといわれています。

この効果は、運動の疲労によるものではなく、実は体温の生体リズムと関係しています。

運動の強度としては、身体が少し温まる程度が適度だと考えてください。入浴も同様で、熱すぎず、ほどよく身体が温まったと感じられる程度がよいでしょう。

就寝の2~3時間前から、生体リズムによって体温の低下が始まっています。この時間帯に運動や入浴によって少しだけ身体を温めてあげる効果は、その後の体温低下をより明瞭なものにして、催眠作用(眠気)を促進することだといわれています。いずれも体温を1~2℃程度上昇させることが適切であるとされ、過度になるとかえって入眠を妨害することになりかねませんので、注意が必要です。

ポイントは朝の体温上昇と夜の体温低下

今回は体温に注目して睡眠環境を考えてみました。安定した生活リズムを維持するために、体温がこれほど関係していると思わなかった人も多いかもしれません。

前回の光刺激と同様、すべきことはやはりシンプルで、朝は体温を上げる、夜は体温の低下を損なわないということです。そのために、しっかりと朝食を摂り、できれば少し身体を動かせるくらいの時間的な余裕をもてるとよいでしょう。夜は、就寝直前まで飲食や活動をするのではなく、やはり時間的な余裕をもって活動を済ませ、体温の低下とともに眠りにつくということです。

体温の変化を日常的に体感している人はほとんどいないと思います。ですが、実際に身体はそのようなリズムを持っています。そこを意識して、快適な生活リズムを工夫してみることが、心身の健康に役立つといえるでしょう。

まとめ

リカレント専任講師の蔵屋先生の連載「メンタルケアPLUS」の第3回では、「メンタルヘルス セルフケア編 –睡眠環境」をテーマにお届けしました。

身体が持つ生体リズムについて理解するとスムーズな入眠へと導くことができます。無意識のうちに行っていたことが、生体リズムを考えると、実は逆効果だったということもあるのではないでしょうか。皆さんも、眠れないなと思う時は、今回の記事に書かれていることをぜひ試してくださいね。

 

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この記事を書いた方のご紹介

蔵屋鉄平(リカレントメンタルヘルススクール専任講師)

リカレント メンタルヘルススクール専任講師
公認心理師/精神保健福祉士
東京都内のメンタルクリニックで休職者の復職支援(リワーク)や、復職後のフォローアップ支援に従事している。

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