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MENTAL HEALTH - 2022.12.05
メンタルケアPLUS 第5回「メンタルヘルス セルフケア編ー睡眠と嗜好品」
前回に引き続き、日常生活のなかで睡眠に影響する可能性がある刺激について考えてみようと思います。
セルフケアとして「睡眠-覚醒リズムを安定させること」とは、つまり私たちがもつ自然な体のリズムを乱さないような工夫をすることといえるでしょう。
人それぞれのライフスタイルによって工夫の仕方もさまざまですが、なかでも個々人の好みが大きく影響すると思われるのが嗜好品です。嗜好品と呼べるものは日常のなかにあふれていますが、より多くの人にとって関係しやすいと思われるコーヒーやお茶、お酒、タバコに目を向けてみましょう。
覚醒効果をもつカフェイン
「眠気覚ましのコーヒー」には、多くの人がお世話になったことがあるのではないでしょうか。よく知られていることですが、これはコーヒーに含まれるカフェインの覚醒効果に期待しているということです。
カフェインが眠気覚ましの効果をもつのは、中枢神経系(ひとまず脳と考えてください)を興奮させ、覚醒水準を高める作用をもつためです。この作用のために医薬品として利用されることもあり、鎮痛薬や眠気・倦怠感を抑える薬剤に配合されている場合もあります。
睡眠との関連でいえば、夜間の自然な眠気は覚まさないほうが良いわけですから、もちろんカフェインは控えたほうが無難でしょう。さらにカフェインには、利尿作用があるということも忘れてはいけません。夜中に目が覚めてトイレに立った後、うまく再入眠できずに朝になってしまうといったことが起こりやすくなるのです。
カフェインといえばコーヒーを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、実は私たちが日ごろ口にする多くの飲料にもカフェインは含まれています。たとえば、緑茶、紅茶、ウーロン茶、ココア、コーラ、栄養ドリンクなどがそうです。
一般的にみると、コーヒーに比べてお茶の類はカフェインへの警戒心が低くなるようです。ですが、カフェイン含有量で考えると、緑茶のなかでも玉露とよばれる種類はコーヒーよりも多くのカフェインを含みます。寝る前に、ほっと一息つくためにお茶を飲むという方々も多いと思いますが、もし好んで玉露を飲んでいるとしたら、実はコーヒーよりも強い刺激を身体に与えてしまっているのです。
朝起きてからのことを考えてみると、たしかに覚醒水準を上げることは大切です。だからこそ「眠気覚ましのコーヒー」が好まれるのでしょう。もし、コーヒーを飲んだ程度では覚醒しないと感じる場合は、「眠気覚ましの玉露」に変えてみるのも一つの工夫といえるかもしれません。
ただし、カフェインの摂りすぎには注意が必要です。もしカフェインを過剰に摂取してしまうと、めまい、吐き気、下痢、不眠や心拍増加といった健康被害をもたらすことがあります。しかしカフェインの影響には個人差が大きいため、一日の摂取量としては明確な基準が定められているわけではありません。ですが、たとえばコーヒーであれば、一般にマグカップで2~4杯程度までとされることが多いようです。
いずれにしても、自分の体質とともに、睡眠-覚醒リズムに影響することを考慮して、カフェインを摂取する時間帯や量に気を配ることが、セルフケアとしては大切な意識になるでしょう。
眠気を催すアルコール
一日の疲れを癒すための「とりあえずビール」は、とてもありふれた習慣です。お酒がすすむにつれて、だんだんと眠たくなり、そのまま寝入ってしまったという経験のある人も多いのではないでしょうか。
「寝酒」という言葉があるように、私たちはお酒が眠気を引き起こすことを経験的に知っています。ですが、睡眠の質を考えると、お酒の力を借りて眠ろうとするのは間違っているのです。
アルコールを摂取して眠りにつくと、私たちの自然な睡眠構造にさまざまな影響を及ぼすことが知られています。いわゆる深い眠りが不必要に増加したり、浅い眠りが増加したり、あるいは睡眠時間が長くなることがあるなど、その影響はとても複雑であり、用量によっても作用は異なります。ここでの詳細な説明は省きますが、生体がもつリズムを妨げず、自然な睡眠構造を維持すること、つまり良質な睡眠をとるという意味では、アルコールが良い影響をもたらすことはないと知っておく必要があるでしょう。
また、アルコールを摂取して眠るという習慣が続くと、いずれ飲酒量が増えていきます。アルコールを慢性的に摂取し続けると耐性が形成されるため、同じ効果(スムーズな入眠や気分を楽にするなど)を得ようとすると、より多くのアルコールを求めるようになってしまうためです。そして最悪の場合はアルコールが手放せない状態、つまりアルコール依存症に陥ります。
アルコールは私たちの睡眠-覚醒リズムを乱すばかりでなく、睡眠障害やアルコール依存症などのメンタル不調とも直結するリスクがあるということを理解しておくことは重要です。
お酒が入ることによって、仲間との会話が盛り上がったり、心理的な距離が縮まったりすることも多いと思います。ですから、飲酒がまったくの悪習とはいえないのでしょうが、その節度を損なわないことが、お酒とのうまい付き合い方ということになるのでしょう。
タバコの覚醒作用
最近は喫煙による健康被害の認識が高まり、喫煙者は減少傾向にあるようです。しかし、片隅に設けられた喫煙スペースには必ず誰かしらがいるものです。使用者が減ったとはいえ、やはり今もタバコは代表的な嗜好品といえるでしょう。
喫煙者には「寝る前の一服」という習慣をもつ人が多くみられます。これが習慣化している人にとっては、寝る前にタバコを吸わないと、かえって落ち着かない気分になるということも多いようです。ですが、睡眠への影響を考えると、良いということは決してありません。
身体的には、タバコを吸うことで覚醒度が増してしまうため、入眠を妨げているといえます。タバコに含まれるニコチンという物質が、ドーパミンやアドレナリンといった興奮性の神経伝達物質の放出を促進するなどの作用があるためです。
また、ニコチンには強い依存性があることが知られています。
そのため、アルコールと同様、タバコそのものが手放せなくなるという、いわゆるニコチン依存を引き起こす可能性もあります。よく耳にする禁煙外来というのは、このニコチン依存からの脱却を目指しているというわけです。
今回は嗜好品が睡眠に与える影響、なかでも嗜好品の代表格といえるカフェイン、アルコール、タバコについて取り上げました。
いずれも私たちにとって、とても日常的で身近な物質です。セルフケアという意味から考えると、私たちが日常的に摂取する身近な飲食物などにも、自然な体のリズムを維持するための工夫の余地があるという理解が大切です。
身体の健康とともに、心の健康という視点からも、みなさんの嗜好品に目を向けてみてください。
まとめ
リカレント専任講師の蔵屋先生の連載「メンタルケアPLUS」の第5回では、「メンタルヘルス セルフケア編 –睡眠と嗜好品」をテーマにお届けしました。
コーヒーやビールなどの嗜好品は、一日の疲れを癒すために欠かせないという方も多いのではないでしょうか。嗜好品もとり方によっては、疲れを癒すどころか、身体や心にも負担がかかってしまうこともあります。皆さんも今回の記事を参考に、見直してみてくださいね。
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この記事を書いた方のご紹介
蔵屋鉄平(リカレントメンタルヘルススクール専任講師)
リカレント メンタルヘルススクール専任講師
公認心理師/精神保健福祉士
東京都内のメンタルクリニックで休職者の復職支援(リワーク)や、復職後のフォローアップ支援に従事している。
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