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キャリア - 2024.11.07更新 / 2023.08.15公開
ジョブディスクリプションとは? 注目される背景や事例を紹介
「ジョブディスクリプション」という言葉をご存知でしょうか。
「ジョブディスクリプション」は、欧米では企業の採用活動や人事評価に欠かせないもので、近年は日本でも注目されています。
本記事では、ジョブディスクリプションとは何か、日本に導入されるようになった経緯と背景、メリットや、具体的な事例をご紹介します。
ジョブディスクリプションとは何か
ジョブディスクリプションとは
「ジョブディスクリプション(job description)」は、職務内容について詳しく記載した書類のことで、日本語では「職務記述書」と訳されます。
業務・職務の内容、目的、責任範囲、経験・実績、スキル、求められる役割、期待される成果などが記載されます。
ジョブディスクリプションは欧米で広く用いられてきました。企業が採用活動を行う際にジョブディスクリプションを求職者に提示したり、人事評価を行う際にジョブディスクリプションを基準にしたりすることが一般的に行われています。
履歴書や職務経歴書との違い
日本で、「仕事に関する書類」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは「履歴書」や「職務経歴書」ではないでしょうか。
履歴書や職務経歴書は、就職活動や転職活動などに用いられる書類で、求職者が作成するものです。
ジョブディスクリプションは企業が用意するものであり、求職者や従業員が用意するものではありません。履歴書や職務経歴書が、個人が企業に対してアピールを行うための書類であるのに対し、ジョブディスクリプションは、企業が求職者や従業員に求めることを明確にするための書類です。
日本でジョブディスクリプションが注目される背景
なぜ日本において、ジョブディスクリプションが注目されるようになったのでしょうか。まず、欧米企業と日本企業の、一般的な雇用体系の違いについて確認します。
欧米と日本の雇用体系の違い
欧米企業では「ジョブ型」、日本では「メンバーシップ型」の雇用体系が主に取られています。
欧米 |
ジョブ型 |
日本 |
メンバーシップ型 |
「ジョブ型」の欧米
ジョブ型の場合、職務内容を一番の軸とし、その職務を遂行できる能力のある人材が雇用されます。そのため、企業側は詳細な職務内容や範囲をあらかじめ定義するもの――すなわち、ジョブディスクリプションを示す必要があり、求職者がその内容を確認し、応募するという流れになります。ある職務に関するスペシャリストを求める雇用体系なのです。
「メンバーシップ型」の日本
日本では、職務内容の詳細を限定せず、自社にマッチしそうな人材を採用する「メンバーシップ型」の雇用が多く行われています。
新卒の人材を、職種や勤務地に限定せず、総合職として採用し、ジョブローテーションを行いながら長期的に育成し、勤務させるような雇用です。
ジョブ雇用型とは異なり、すぐ戦力になるスペシャリストは獲得できませんが、様々な職務を経験し、人脈を形成し、企業について幅広い知識を得ている人材、つまりゼネラリストとしての成長が見込めます。
日本でもジョブ型が必要?
メンバーシップ型雇用は、経済が発展し、企業も安定して成長していくことを前提に、従業員を長期間雇用するものでした。
年功序列制度や終身雇用制度に見られるように、長く在籍している人ほど社内で高い能力を発揮すると考え、在籍年数に応じて評価する、そういった仕組みが多かったのです。つまり、安定した環境を前提としたシステムでした。
現在の日本経済は、国際競争の激化、人材不足などの問題により、安定した環境とはいえません。従来のメンバーシップ型の雇用体系では時代に対応できなくなっているのです。
日本でジョブディスクリプションが注目される理由
ジョブ型、ジョブディスクリプションの重要性が高まった具体的な理由を見ていきます。
「同一労働同一賃金」の適用
近年は、若手社員も評価される、昇格できるといった成果主義も多くなりましたが、一方で課題となったのが、正社員以外の従業員の評価と待遇です。
働きに応じた評価と待遇は、正社員のみならず、パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者などの従業員に対しても整備される必要があるということが、国から提示されました。
2021年4月1日より全面施行されている「パートタイム・有期雇用労働法」です。
同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。
※パートタイム・有期雇用労働法(2021年4月1日より全面施行)、労働者派遣法(2020年4月1より施行)
引用:厚生労働省 | 同一労働同一賃金とは
これは、職務に応じた賃金を支払う「ジョブ雇用型」を検討するきっかけのひとつと言えるでしょう。
グローバル人材獲得の必要性
日本国内では少子高齢化社会が進み、人材不足はさらに深刻になるといわれています。
また、インターネットやSNSの普及で海外が身近になり、市場が縮小している国内市場だけでなく海外市場に目を向ける企業も増加傾向にあります。そのため、そういった動向に対応できる、グローバル人材の獲得が必要となっています。
従来の日本で一般的な、採用活動方式が今後グローバル人材にマッチしなくなる可能性があります。
そのため、ジョブディスクリプションは、企業の採用方式、評価方法を国際基準にできる一つの手段ともいえるでしょう。
生産性の高い人材の獲得・育成
働き手不足やグローバルな企業間競争の高まりは、生産性にも影響を及ぼします。企業は少ない人材で高い生産性を維持しなくてはならないため、一人当たりに求められる生産性も高くなります。
スペシャリストとして、専門的で高いスキルを持った人材がキーとなってきます。
スペシャリストを獲得し、働き続けてもらうためには、やはりジョブ型の雇用がモデルとなってきます。職務内容などをしっかり明示し、評価を行う、その手段としてジョブディスクリプションの必要性が高まっています。
働き方の多様化
柔軟な働き方を認めることで、労働力として多様な人材を確保することにつながります。また、個々に合った働き方を実現することで、モチベーションが高まり、企業全体の生産性向上にもつながるとされています。
働き方が一つでない場合、どの仕事をどのように達成すればどう評価されるか、そういったことを明確にする必要が出てきます。雇用側・従業員側双方にとってのわかりやすい指標として、ジョブディスクリプションが有効になってくるのです。
「所属する安心感」、ビロンギング~ダイバーシティ・インクルージョン・エクイティとの違いについて | リカレントcounselor |
ジョブディスクリプションを使用するメリット
次に、ジョブディスクリプションを用いるメリットをご紹介します。
スペシャリストの確保・育成
職務内容と評価基準が明確になるため、生産性と専門性の高い人材の確保につながります。
ミスマッチ解消
職務内容を事前に明確に示すため、「入社前・配属前に聞いていた仕事と違った」という事態を防ぐことができます。
業務の効率化
職務内容が明確なので従業員が業務に取り組みやすくなります。基準があることで、マネジメント側の管理もしやすくなり、効率良くチームを回すことができます。
評価の正当性
ジョブディスクリプションが評価基準の一つになることで、評価される側とする側の認識の差が生じにくくなります。評価に正当性があり、納得感を得られやすく、評価される側が不満を抱きづらくなります。
ジョブディスクリプションを使用するデメリットと注意点
一方で、ジョブディスクリプションを使用する際のデメリットや注意点は何でしょうか。
異動がしにくい環境になる場合がある
スペシャリストとして採用・育成していく場合、他の職種に変更しにくい可能性があります。
社内ネットワークが生まれにくい場合がある
従業員が各職場専門で働く場合、他部署とは、業務に直結する問題以外は共有されにくくなることがあります。社内の風通しの良さに工夫が必要です。
ジョブディスクリプションを活用し、ジョブ型をベースにしつつ、これらの課題にうまく対処して成功している企業も多数あります。他の施策と合わせて対応することで、組織の力をアップさせることができるのです。
ジョブディスクリプションを導入してみよう!
ジョブディスクリプションは実際にどのように記載するのかを紹介していきます。
ジョブディスクリプション記入例
ポジション |
「◯◯部 部長」「◯◯部 担当」など、職位を記載します。 |
職務目的・責任 |
その職務が何を目的としているか、そのポジションはどういった立場で目的達成に貢献するのかを明確にします。 |
業務・職務内容・範囲 |
業務・職務の内容を具体的かつ、漏れなく記載します。また、部下や後輩の育成なども含めます。 |
必要とされる資格・スキル・経験 |
特定の資格やスキルが必須の職種では重要なポイントです。専門的な知識・技能の他、マネジメント経験といったことも記載します。 |
給与・待遇 |
年収や月給、賞与の他、ストックオプションなど組織が従業員に与えるものについて記載します。 |
評価方法 |
MBO評価、360度評価など、組織の評価方式を明確にします。 |
勤務地 |
転勤の有無についても記載します。 |
企業が出している従来の求人票に似ていると感じた人もいるかもしれません。しかし、ジョブディスクリプションは、職務内容や範囲、目的や責任についてより詳細に記載されているため、より明確で、具体性のある指標といえるでしょう。
ジョブディスクリプションを導入する際のポイント
ジョブディスクリプションを導入する際には、大きく2つのポイントがあります。
①組織全体の生産性を損なわないようにする
ジョブディスクリプションは、あくまである時点での職務や責任を明確にしたものです。従業員が記載されている業務以外にも目を向け、積極的に関われるように工夫することが必要です。
方法としては、評価者・マネジメント者とともに目標管理を丁寧に行う体制を作ること、組織全体のジョブディスクリプションを作成し、全体を見渡しやすくすることなどが挙げられます。所属している部署以外に目を向けられる環境づくりは、社内の風通しの良さと、協力体制を強めることにつながります。
②定期的に見直しを行う
経営課題や環境、人材育成など、様々な観点から、個々にあった業務の見直しが必要です。一度作成して終わりではなく、従業員と組織の成長につながるジョブディスクリプションに更新していきましょう。
ジョブディスクリプションの導入事例
日本でのジョブディスクリプションの導入事例として、株式会社日立製作所の例をご紹介します。
日立製作所では、2008年度よりジョブ型の人材マネジメントを進めています。
2012年度に人材情報をデータベース化、2020年度には職種・階層別450種類にわたるジョブディスクリプションを整備しています。さらに2021年度以降は、管理職向け・一般社員向けそれぞれに詳細なジョブディスクリプションとしました。
現在では、6万以上のポジションに詳細なジョブディスクリプションが定められています。今後も整備を進め、拡大される予定です。
ジョブディスクリプションに期待する効果として、女性活躍の推進力になることが挙げられています。これまでは、家庭か仕事か選択しなければいけなかった立場の方が、働き方を変えながら活躍できるようになっています。働き方とポジションが明確にパターン化されているため、自身の働き方で実現できること、取り組みたい仕事が見つけやすい環境になっています。
その他、大手企業を中心にジョブディスクリプションの導入が進んでいます。多様な働き方を実現する他、ジョブディスクリプションによって社内公募やマネジメント職への立候補が活発になるケースも多いようです。ジョブディスクリプションは、各職務やポジションを明確に定めるだけでなく、開示することによって従業員の選択肢を広げる効果も発揮しています。
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まとめ
ジョブディスクリプションを導入することで、従業員それぞれが自分らしく力を発揮し、組織全体の力を高めることが期待できます。
本記事が、皆様が様々な場面で活躍するお役に立てましたら幸いです。
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