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マミートラックとは?起こる原因やキャリアに与える影響を解説

監修元村 久美子(国家資格キャリアコンサルタント)
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共働き世帯にとって仕事と子育ての両立は大きな課題となっており、その背景には日本における女性の社会進出の遅れがあるとされています。
この記事では、産休や育休後に復職した女性従業員が、キャリアアップすることが困難であるという現状から生まれた「マミートラック」について解説していきます。
マミートラックとは
マミートラックとは、マミー(Mommy:母親)とトラック(track:陸上競技場の周回コース)を合わせた造語で、育児をしながら働く女性が、自分の意思とは無関係に出世コースから外れてしまう状態を指します。
一見すると、子育てと仕事を両立できているように見えますが、実際には補助的な業務への配置転換や、望まない部署への異動を選ばざるを得ないなど、昇進や昇給から外れたコースに乗ってしまうことです。
マミートラックはキャリアと育児を両立しやすいよう、働き方を柔軟にする目的で生まれた考え方でしたが、現在では「ママ専用のキャリアパス」として限定されてしまう状況を指すことが一般的です。
マミートラックはなぜ起こる?
では、マミートラックはなぜ起こるのでしょうか。主な要因として以下のような点が挙げられます
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様々な取り組みの弊害
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女性進出の遅れ
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ジェンダーバイアス
順番にみていきましょう。
1.様々な取り組みの弊害
復職後の女性従業員に対して不適切な扱いや、過度な仕事量を課すことはハラスメントに該当するケースもあるため、企業が様々な配慮をした結果、マミートラックのような状態が生じると考えられています。
すべての女性が復帰後に同じポジションを望むわけではありませんが、「一律の配慮」によって個々の希望が反映されにくくなることが、マミートラックの課題であるといえます。
2.女性進出の遅れ
2022年に内閣府が発表したデータによると、就業者に占める女性の割合は44.7%ですが、管理的職業従事者に占める女性の割合は13.2%と、依然として低い水準にあります。
また、日本では男性を中心とした働き方や昇進基準が根強く、女性は家庭の責任を多く担うことが前提とされているため、出世コースから外れやすくなっています。
内閣府 女性活躍に関する基礎データ 6ページ目グラフを加工して作成
また、日本における多くの職場では、男性のキャリアに適した働き方や昇進条件が根強く存在することも指摘されています。
男性が出世コースや上級ポジションに進むことが期待される中で、女性は家庭の責任分担が多いこともあり、結果的にマミートラックにつながるのではないかと考えられています。
ジェンダーギャップ指数
スイスの非営利財団である世界経済フォーラムが毎年発表している「ジェンダーギャップ指数」は政治・経済・教育・健康などから算出される指標で、1を男女平等、0を不平等とした場合の数値になるため、0に近いほど男女格差が大きいとしています。
2024年のジェンダーギャップ指数では、日本は0.663で146か国中118位でした。1位のアイスランドと比較すると、日本は低い値となっています。
内閣府 男女共同参画に関する国際的な指数の表を加工して作成
3.ジェンダーバイアス
多様性が認められる時代においても、ジェンダーバイアスは存在しています。
とくに、社会的な期待や偏見に基づいた、性別に関する固定観念をジェンダーステレオタイプといいます。
たとえば、女性は優先的に子育てや家庭に関わるべきというジェンダーステレオタイプが広く存在する場合、出産や育児を理由に昇進や出世が遅れる場合があるのです。
呼び名の変化
少し前までは、配偶者を「主人」や「奥さん」と呼ぶことも少なくありませんでしたが、現在では可能な限りフラットな状態での呼び名が適切であるとされています。
これは家庭内だけではなく、小学校などでも「あだ名」や「ニックネーム」で呼ぶのではなく、男女を問わず苗字や名前に「さん」をつけて呼び合うことが推奨されています。
しかし仕事と家庭の両立を支える取り組みや制度を整える中で、呼び名に関するジェンダーバイアスを取り除くことは容易ではなく、この背景がマミートラックが起こる一因であると考えられています。
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マミートラックのメリット
マミートラックにはメリットも存在します。
各家庭によってサポート体制も異なるため、負担にも個人差が発生しますが、時短勤務やポジションの変更が行われている場合には、急場にも対応ができるというメリットがあります。
さらにリモートワークを活用すれば、勤務時間を調整しやすくなるため、子育てとキャリアの両立もしやすくなります。
子育て世代のストレス
産休や育休前と同じポジションでフルタイム勤務となると、複合的なストレスにさらされる可能性があります。
厚生労働省がまとめた2019年「国民生活基礎調査の概況」の「性・年齢階級にみた悩みやストレスがある者の割合」では、30〜39歳、40〜49歳の女性のストレスは60.4%と、同世代の男性と比較しても高い割合となっています。
厚生労働省 2019年 国民生活基礎調査の概況 図21を加工して作成
無理をしながら仕事と家庭の両立を続けていくと、健康にも影響が出てきます。そのため、マミートラックはこころとからだの健康の面においても、非常に有効であるといえます。
マミートラックのデメリット
では、マミートラックのデメリットについてもみていきましょう。
女性管理職登用の壁
社内にマミートラックが存在する場合、総合職であっても責任の度合いが低い業務を割り当てられることで、女性社員の管理職昇進が遅れてしまうことがあります。
政府が掲げる「指導的地位に女性が占める割合を30%程度とすること」という目標から外れ、女性の管理職登用が進まない要因となってしまいます。
仕事のやりがいへの喪失感やメンタルへの影響
産休や育休前は最前線で仕事をこなしていたり、責任のあるポジションだったりする場合は、無理のない範囲でという配慮によって配置転換や働き方が制限されることが、逆にモチベーション低下につながる場合があります。
他にも産休や育休後に復職した女性従業員が、意思とは関係なく自動的に時短勤務になると、その分の業務を他の従業員が負担するケースもあることから、職場のコミュニケーションに不和が生じる可能性もあります。
マミートラックがキャリア形成に与える影響
マミートラックのデメリットとして最も多く挙げられるのが、キャリア形成への影響です。
マミートラック基準で働き続けると、以前のような評価がされにくくなることがあります。産休や育休がキャリアの一時的な中断と見なされることで、元のポジションに戻るのがむずかしくなるケースが多く、ポジションや勤務形態の変更だけでなく、給与面にも影響を与えることがあります。
仕事と子育てを両立するためには?
重要なポジションで仕事したい、管理職を目指したい、子育てとの両立をしていきたいと考えている場合は、社内の取り組みや制度だけではなく、自身での対策も重要になってきます。
キャリアデザインの明確化

キャリアデザインを行うことで、将来の変化や状況に適応する柔軟性を身につけることができます。
また、人事や上司にキャリアデザインをしっかりと伝えておくことで、企業内でのキャリアパスのすり合わせをより具体的に行えるようになるでしょう。
支援やサービスを利用する

日本では核家族化が進んでも、「家族が子育ての中心である」という考え方から変化がみられないまま現在に至ります。
仕事と子育ての両立には、支援やサービスが必要不可欠です。保育所、認定こども園、地域子育て支援拠点やファミリー・サポート・センター、一時預かり、そして小学生からは放課後の学童クラブなどもあります。
働き方の見直し

無理のない仕事と子育ての両立が、現在の働き方では困難であると感じている場合は、見直すことも大切です。
会社の方針や制度に対しては、個人で変えていくことは困難であるため、より柔軟に、働きやすい環境を検討してみるのもよいでしょう。
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まとめ
この記事では、「マミートラック」について解説しました。
マミートラックは、仕事と子育ての両立を支援する意図がある一方で、キャリアの選択肢を狭めてしまう側面や女性の社会的立場の損失につながる可能性あります。企業の制度や社会の意識改革が求められる中、個人としてもキャリアデザインを明確にし、支援制度を活用しながら柔軟な働き方を模索することが重要です。
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この記事の監修者
元村 久美子
広告会社、大手化粧品会社宣伝部にてマスコミュニケーションに携わる。
その後フリーランスとして様々な分野で活動。
国家資格キャリアコンサルタントとしては企業内障害者ジョブ支援、
自治体の就労支援事業の講師・相談員・現場統括責任者を歴任。
現在は文化芸術振興の広報業務にも携わっている。