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キャリア - 2024.10.21更新 / 2023.03.30公開
パースペクティブ・テイキングとは? メリットや実際の効果、実践方法について
現在は、「だれもがより良く、より心地よく、生き生きと仕事にまい進できるように」という考えの元、さまざまな概念が提唱されるようになってきています。
「パースペクティブ・テイキング」という概念もそのうちのひとつです。
「パースペクティブ・テイキング」とは?
パースペクティブ・テイキングは、パースペクティブ・テイキング・メソッド(PTM)とされることもある言葉です。
パースペクティブ・テイキングを簡単に言うと、「相手の立場に立って考えること」という意味になります。
日本語では「視点取得」と表現されます。この言葉はビジネスの場面で広く使われるようになっていますが、他者の立場に立って考えるという概念は、多くの人が子どもの頃に学んだものでもあります。
ビジネスシーンでの「パースペクティブ・テイキング」
ビジネスの場面では、特に、「相手の立場に立って考えることで、コミュニケーションのミスやエラーを防ぐ」という意味合いで使用されています。
私たちはそれぞれ個別の考えや理念、そして理想や視点を持っています。
自分の立場のみでし物事をとらえると、「相手もこうするはずだ」などの思い込みが発生する可能性があります。そしてこのような状況は、多くのミスやトラブルにつながる恐れがあります。
パースペクティブ・テイキングは、これらのミスやトラブル、また問題解決の遅延を防ぐために非常に大切なものだといえるでしょう。
パースペクティブ・テイキングがもたらすメリット
パースペクティブ・テイキングがもたらすメリットは、数多くあります。
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人と人との間の距離を縮める
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様々な世代のコミュニケーションが円滑になる
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交渉事を進めやすくなる
それぞれみていきましょう。
1.人と人との間の距離を縮める
パースペクティブ・テイキングは、人と人との距離を縮めることに役立ちます。
相手の立場になって考えることはコミュニケーションの基本です。それが出来ていれば、相手は「大切にされている」と感じ、信頼感が生まれるでしょう。
人と人との距離を縮めることができれば、「あの人が困っているから助けよう」という気持ちが自然に出てきます。そしてこの「助け合い」は多くの場合、職場の人間関係を円滑にします。その結果として、生産性の向上につながることも期待できるのです。
厚生労働省が発表した「転職入職者が前職を辞めた理由」をみると、「職場の人間関係が好ましくなかった」と回答した割合は男性8.1パーセント、女性9.6パーセントと高く、「パースペクティブ・テイキング」は職場の人間関係を円滑に進める上で重要であるといえます。
厚生労働省 2021年雇用動向調査結果の概況 表6を加工して作成
2.様々な世代のコミュニケーションが円滑になる
職場には様々な年代の従業員が働いています。規律を重んじる世代もいれば、それを古い価値観だと感じる世代もいるでしょう。
たとえば、自分の働きをしっかりと評価されたい新入社員と、「仕事は見て学べ」と若い頃に言われてきた上司との間には、育ってきた環境以外にも、受けてきた教育や生きてきた時代の違いがあって当然です。
では、上司は自分の主張とは異なる新入社員の言葉にもしっかりと耳を傾け、バイアスなしで評価をする事ができるでしょうか。また、新入社員は上司の仕事の進め方やアドバイスを冷静な視点で見ることができるでしょうか。
このような状況の時に役立つのが「パースペクティブ・テイキング」です。
互いにパースペクティブ・テイキングを意識することにより、職場での円滑なコミュニケーションが期待できるのです。
3.交渉事を進めやすくなる
パースペクティブ・テイキングは、交渉事をより有利に進めるためにも役に立つといわれています。
たとえば、24年間もFBIの交渉人の立場にあった人物は、このパースペクティブ・テイキングを使った交渉が非常に有効であることを知っていたとされていて、また彼自身もパースペクティブ・テイキングを用いた交渉技術を非常に得意にしていたといわれています。
私たちは、自分たちの要求を通そうとするとき、しばしば語調がきつくなったり、相手を委縮させる言葉を選んだりしてしまいがちです。しかしこれは、一時的な効果があったとしても、長期的な視点で見たときには、あまり好ましくない方法と言えるでしょう。
また一度きりの交渉であっても、基本的には相手の立場に立ち、相手のことを考え、相手の顔を立てるかたちで交渉した方が成功しやすくなります。
コミュニケーション不和を回避する
多くの人は、威圧的な態度で自分に迫ってくる人に対しては、良い印象を持ちません。
例えば、仕事上でイレギュラーな対応があったときに、上司から部下への指示の出し方や、やりとりがうまくいかなかったとします。その結果として、部下は「指示されたことのみを行う」「給与分の仕事量以外はやらない」「イレギュラーなことには対応しない」という態度になってしまうことが多いのです。
もちろん、私たちには一人ひとり個別の感情がありますから、相手の立場に理解を示したり共感したりすることには限界があります。
相手の考え方に100パーセント共感をする必要はありませんが、「なぜ相手はこのような発言をするに至ったのか」「相手がどのような考えで行動しているのか」を自分の視点と相手の視点、両側から見ることによって、交渉をする側、またされる側としても、コミュニケーションの不和を回避することができるでしょう。
ストレスのない環境づくりにも有用
ここまでは「パースペクティブ・テイキングのもたらすメリット」を取り上げましたが、人間関係が良い職場環境を作ることは「個々の精神の健康」を守るためにも役立ちます。ギスギスした人間関係の職場に務めるよりも、暖かい雰囲気の職場に務めることの方が、当然かかるストレスは少なくなります。
さまざまな意見はあるにせよ、「ストレスは万病の元」ともいわれる現在において、この「ストレスの少ない環境」を作ることに役立つパースペクティブ・テイキングは、個々人の健康に目を向けたときにも非常に有用だといえるでしょう。
「自分も相手も大切にする自己表現」であるアサーショントレーニングについては、こちらの記事で詳しく解説をしています。ぜひ参考にしてください。
アサーショントレーニングとは? 3つの自己表現タイプと具体的な技法 | リカレントcounselor |
パースペクティブ・テイキング実践のための5つのステップ
最後に、パースペクティブ・テイキングの実践として、パースペクティブ・テイキングを元とした対話のための5つのステップを紹介します。
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まずは相手の立場や考えを把握する
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不満点を、お互いの立場で考える
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もう一度自分の考えを振り返る
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相手に気持ちを聞く
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具体的な交渉に入る
1つずつ順番にみていきましょう。
1.まずは相手の立場や考えを把握する
交渉を行う際は、まず相手の立場や考えを把握しましょう。
たとえば、フレックスタイムの導入を嫌がられた場合、なぜ相手は導入を嫌がっているのかを考えるわけです。
2.不満点をお互いの立場で考える
「自分は何を不満に思っているのか」「相手はどんな点に悩んでいるのか」を、自分のなかで整理します。
このときに重要なのは、「自分の不満点」を洗い出すのと同時に、「相手の不満点や悩み」も一緒に洗い出すことです。
3.もう一度自分の考えを振り返る
自分の不満点と相手の不満点を冷静な視点で洗い出すことで、自分の考えの正当性を振り返りやすくなります。
確かに相手にも不満点はあるだろうが、自分の現状も変えなければならない」「自分の不満点のうち〇〇と〇〇は譲れるが、××の部分は譲ることが難しい」などのように考え方が変化することもあるでしょう。
もちろん、「冷静に2つの意見を比較して考えたら、相手の方が正当性のある主張だった」というケースもあるでしょう。
4. 相手に気持ちを聞く
ここまで終わったら、相手に実際の気持ちを聞いてみましょう。ここまでは自分のなかで考えていることでしたが、ここからは相手との「対話」をしていくことになります。
こちらが歩み寄り、相手に理解を示した状態で話を切り出せば、「1」以前のときよりも理性的な答えが返ってくる可能性が高まります。
なお上でも述べた通り、このときには必ずしも相手に「同意」する必要はありません。
5. 具体的な交渉に入る
相手の意見を聞いたうえで、自分の意見も伝えて、具体的な交渉に入ります。
このときに、感情的に言葉をまくしたてるのは良くありません。「私はあなたの立場を理解していて、〇〇の点ではあなたの言い分を受け入れる。
ただ、私は××に困っているので、これをこうしてくれるとうれしい」などのように、冷静に伝えていきましょう。
パースペクティブ・テイキングは、「だれもが心地よく働けるための場所」を作るための手段のうちのひとつです。ぜひ活用してみましょう。
まとめ
子どものころにだれもが聞かされた「相手のことを考えなさい」「相手の立場に立って物事を判断しなさい」という教えは、単純ではあるものの難しく、そして難しくはあるものの有用です。
この考えと通じる「パースペクティブ・テイキング」は、現在のビジネスの場でも非常に多くのメリットをもたらします。だれもが活躍しやすい環境を作るために、この考えを実践していきましょう。
Q&A
若い世代は丁寧でプラスの指導を求めるようになっていますし、40代以降は新しい意識と古い意識を持つ人で分かれてもいます。
ただ、「若い世代はこうで、そうではない世代はこう」と決めつけることもまた、パースペクティブ・テイキングの考えとは大きく異なるものです。個々人の考え方を理解したうえで、話し合いを進めていくことが求められます。
パースペクティブ・テイキングはどの仕事においても有用です。ただ、心理カウンセラーなどの「相手に寄り添う仕事」「相手の話を聞くことが業務である職種」においては、特に重要視されます。
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