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キャリア - 2024.10.09更新 / 2024.07.12公開

社会関係資本とも呼ばれる「ソーシャルキャピタル」の考え方とは

他者とのつながりを持つことは、社会で生活をしていく中で必要不可欠といえます。そのようななかで注目を集めているのが、「ソーシャルキャピタル」という言葉です。

「信頼」「つながり」を表すソーシャルキャピタルについて

内閣府では、ソーシャルキャピタルの概念に大きな影響を与えたロバート・パットナムの著書から引用し、ソーシャルキャピタルの定義を以下のように記しています。

人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることのできる、「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴

引用:内閣府  |  II ソーシャル・キャピタルという新しい概念

「ソーシャルキャピタル」とは、「信頼」「つながり」「ネットワーク」を表す言葉です。特に「社会とのかかわり方」に焦点を絞ったものであり、昔から数多く研究されてきました。

また、ソーシャルキャピタルは「社会関係資本」とも呼ばれ、物的資本や人的資本と並ぶ概念として注目されています。なお、道路や上下水道などのインフラを指す「社会資本」と区別するために、ソーシャルキャピタルは「社会関係資本」と訳されています。

ソーシャルキャピタルの研究を行った人物の中でも特に有名なのが、アメリカの政治学者であるロバート・パットナムです。

パットナムは、「ソーシャルキャピタルとは、信頼や規範、ネットワークなどのような社会制度を表す言葉である。また、人々がこのソーシャルキャピタルの考え方に基づいて協調した行動をとることで、社会はより効率よく動くようになる」とする理論を唱えました。

ソーシャルキャピタルという言葉を初めて使用したL・J・ハニファン

ソーシャルキャピタルの祖ともいえる人物は、L・J・ハニファンだと考えられています。彼はロバート・パットナムよりも77年も前に、ソーシャルキャピタルの概念を唱えた学者として知られています。

アメリカの教育学者であったハニファンは、「善意と仲間意識、お互いへの共感や交流などをソーシャルキャピタルとして位置づける」としました。また、ハニファンは「学校とのコミュニティが重要であること」を説明するために、この概念を使った人物でもあります。

ソーシャルキャピタルの概念を研究する学者は非常に多く、それぞれの学者によって「何をもってソーシャルキャピタルとするか」「何の説明にソーシャルキャピタルを使うか」「どのような構成要素でソーシャルキャピタルは成り立っているか」は異なっています。

また、パットナムは1993年にソーシャルキャピタルの基礎ともいえる概念を築いた人物ですが、2000年以降もソーシャルキャピタルに関する研究は続いています。

 

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ソーシャルキャピタルの3つの要素

ソーシャルキャピタルは多くの人物によって研究されているため、「○○をもって、ソーシャルキャピタルとする」と断言することは非常に難しいといえます。

この記事では、よく知られているロバート・パットナムの唱えた説から、ソーシャルキャピタルについて解説していきます。

パットナムによると、ソーシャルキャピタルは3つの要素で構築されています。

それが、

  1. 信頼

  2. 規範

  3. ネットワーク

それぞれについて解説していきます。

信頼

信頼という要素は、社会のあらゆる場面において、非常に重要な要素であるといえます。

たとえば、企業間での契約の場合、品質や納期においても、信頼を寄せている取引先であれば、安心して契約を行うことができるでしょう。

信頼性のある取引先との契約はビジネス上のリスクを軽減し、安定性をもたらします。そのため、企業は取引先の選定において、信頼性を重視する傾向があるといえます。

私たちの社会は、すべて「信頼」に基づいて営まれています。ビジネス上のやりとりは特にこの「信頼」が重要です。

契約を結ぶとき、私たちは「よく知っている相手」に対しての方が、仕事が進めやすく感じますが、パットナムは、ソーシャルキャピタルを築くうえで求められる協調行動は、「知らない人との信頼関係」のなかでより生まれやすいとしました。

これは、前者はあくまで「親密な関係性のなかで生まれる厚い信頼」であるのに対し、後者は「より広範囲の地域における社会的な関係性のなかで生まれる薄い信頼である」という考え方に基づく解釈です。

規範

パットナムは、相互に利益のある規範を重要視しました。ソーシャルキャピタルを築き上げていくうえでは、「相互の関係は、双方それぞれにとって利益があるものであり、かつその利益が同等程度であること」の方が望ましいと考えられました。

いわゆる相互利益の関係でないと、ソーシャルキャピタルは健全なかたちでは築けないとしたのです。

ただ、最初からすべての人がお互いに対して利益のあるものを差し出せるわけではありません。そのため、将来的にお互いの利益が均衡になると考えられるのであれば、現時点では利益が不平等であっても構わない、とされています。

つまり、「関係性などを育てることで、お互いにとって利益のある関係に成長できるのであれば、現時点での利益が不平等であっても良い」としているのです。

ネットワーク

パットナムが唱えるソーシャルキャピタルの構成要素のうちの「ネットワーク」を、最後に取り上げていきましょう。

ネットワークという言葉を聞くと、一般的にインターネットを想像するかと思いますが、ソーシャルキャピタルの中でのネットワークは「人と人とのつながり」を意味します。

ソーシャルキャピタルにおけるネットワークは、「垂直方向のネットワーク」と「水平方向のネットワーク」に分かれます。

垂直方向のネットワーク

垂直方向のネットワークとは、上司と部下のように、上下関係があるつながりのことをいいます。対して水平方向のネットワークとは、垂直のネットワークとは異なり、上下関係のない横並びのつながりのことをいいます。

水平方向のネットワーク

スポーツクラブや趣味の習い事のグループなどの水平方向のネットワークは、社会的な広がりを維持向上させるものであると考えられています。そのなかでもとりわけ、直接顔を合わせる機会が多いコミュニティは、ソーシャルキャピタルの形成において大きな力を持つとされています。

ソーシャルキャピタルの構築においては、垂直方向のネットワークではなく、水平方向のネットワークが重要になると考えられています。もっと踏み込むと、ロバート・パットナムは、「垂直方向のネットワークがどれだけ密になったとしても、それはソーシャルキャピタルの形成には寄与しない」としています。

ソーシャルキャピタルの2つのカテゴリー

ソーシャルキャピタルの3つの構成要素を見てきたところで、ここからはソーシャルキャピタルの2つのカテゴリーについて解説していきます。

ソーシャルキャピタルの「性質」には、「結合型のソーシャルキャピタル」と「橋渡し型のソーシャルキャピタル」の2つがあります。

結合型のソーシャルキャピタル

結合型のソーシャルキャピタルは、「家族」「一つの組織」などにおけるつながりを表す言葉です。

この結合型のソーシャルキャピタルは、PTAや親族、労働組合などのように公的な意味を持つつながりであることが基本であり、利益に関しても「その組織に所属する人が、より多くの利益を得られるようにすること」を目的とする場合が多いといえます。

また、内部でのつながりを基本とするため、信頼の度合いは厚く、その連帯も強固なものとなりえます。

この結合型のソーシャルキャピタルは、内部の人間をより強く結びつけるものであり、人と人とを強く、そして親しく結びつけるものでもあります。

橋渡し型のソーシャルキャピタル

橋渡し型のソーシャルキャピタルは、結合型のソーシャルキャピタルと対で語られるものです。

橋渡し型のソーシャルキャピタルは、「内部同士のつながり」である結合型のソーシャルキャピタルとは異なり、「内部と外部のつながり」を意味するものです。

結合型のソーシャルキャピタルは自分自身と共通点が多かったり、信頼の度合いが強かったりする人同士で結びつく関係ですが、橋渡し型のソーシャルキャピタルは「自分自身の経験の一部」「一部の価値観があった人同士」などのような関係性で結ばれるものです。そのため、信頼の表し方も比較的薄くなります。

また、橋渡し型のソーシャルキャピタルの場合は、利益を求めようとするとき、「内部の人も外部の人もともに利益が得られるようにしよう」と考えることが多いといえます。特に公共の利益を目的とすることが多く、「内部の利益を最大限にしよう」という考え方は持ちません。

ソーシャルキャピタルのかたちを分類する場合、この「結合型のソーシャルキャピタル」と「橋渡し型のソーシャルキャピタル」がよく取り上げられます。

ただ現在はこれに加えて「連結型のソーシャルキャピタル」の考え方も提唱されるようになりました。

連結型のソーシャルキャピタルは、民主的な社会でよく見られるものであり、「権力を持つ政治家と一般市民が、お互いの信頼関係に基づいて築いていこうとするつながり」のことを指します。

たとえば災害復興などの現場においては、この連結型のソーシャルキャピタルが非常に強く求められます。

まとめ

「社会とのつながり」を表す「ソーシャルキャピタル」は、昔から広く研究されてきた概念です。ロバート・パットナムが唱えた論はそのなかでも知名度が高いといえます。

ソーシャルキャピタルを構築する要素として「信頼」「規範」「ネットワーク」を取り上げ、その性質を解説していったロバート・パットナムの論は、今でも多くの人に親しまれています。

Q&A

ソーシャルキャピタルとは?
ソーシャルキャピタルの概念に大きな影響を与えたロバート・パットナムによると、ソーシャルキャピタルは以下のように定義されています。人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることのできる、「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴。
ソーシャルキャピタルの祖はだれ?
ソーシャルキャピタルを初めて使用した人物は、L・J・ハニファンだと考えられています。
ソーシャルキャピタルを構成する3つの要素とは?
ロバート・パットナムによると、ソーシャルキャピタルは「信頼」「規範」「ネットワーク」の3つの要素で構成されています。
ソーシャルキャピタルの性質について知りたい
ソーシャルキャピタルの「性質」には、「結合型のソーシャルキャピタル」と「橋渡し型のソーシャルキャピタル」があります。

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