特集 Feature

リカレントの講師は全員、
業界の第一線活躍しているスペシャリストです。
そんな講師の方々にリアルなお仕事現場の話や今後の展望などをインタビューしました。

これからのキャリアコンサルタントに求められるもの – キャリアとメンタルの統合的支援

リカレント新宿のラウンジにて。

写真左:杉山崇 写真右:堀口恵子

これからのキャリアコンサルタント/キャリアカウンセラーに求められていくもの。それは「キャリアとメンタルの統合的支援」と語る神奈川大学の杉山崇教授。

そして支援を行う上でモットーにしているのが「キャリアとメンタルの両面から働く人を支えること」というリカレントキャリアデザインスクールの堀口恵子学校長。

業界の第1線で活躍されるお二人をお呼びし、これからのキャリア支援について語っていただきました。

キャリアコンサルティングの世界を知った時
「こんな仕事があるんだ」と思った

杉山「堀口先生はリカレントでキャリア支援の資格を20年くらい前に取得された後、キャリアコンサルタントとしてキャリア支援を行いながら、リカレントの講師として15年以上活躍され、現在はリカレントキャリアデザインスクールの学校長もされていますね。当時はキャリア支援がまだ一般的ではなかったと思いますが、どんなきっかけでキャリア支援の世界に入ったのですか?」

堀口「私がキャリア支援の世界を知ったのは、今も職場の一つでもあるのですが、派遣関係の団体に事務員として入ったことがきっかけです。前の会社をやめて、週3日のパートで仕事を探していたところ、ハローワークでたまたま見つけました。
その団体は電話によるキャリアカウンセリングの立ち上げをこれから行うというところでした。その立ち上げの事務員として、応募されてくるカウンセラーの方の履歴書だとか、面接の準備をしたり、クライアント役をやったりしました。そこでこういう仕事があるんだと知ったのです。
『おもしろそう、なんかできそう!』という、そういう感じです。

杉山「きっかけは事務員として入った仕事で、おもしろそう、というところから始まったんですね。最初に感じた、おもしろそう、ということについてもう少しくわしく聞かせてください」

堀口「おもしろそう、というのは、まず世の中にこういう自分らしい生き方、働き方をサポートする仕事があるんだと知らなかったからです。そこで興味を持って自分で調べたりしてみました。

そのうちに、『なんかこれできるかも』『これまでの社会人経験を活かしてできるんじゃないか』とピンときたのです。『おもしろそう』、『できそう』という2つの気持ちが合わさってエネルギーになったんだと思います。

杉山「それ大事ですよ、『できそう』っていう気持ちが大事ですよね」

堀口「それで調べて、リカレントを知り、リカレントのキャリアカウンセリング講座を受講しました。社会人経験が20年と長く管理職経験もあるので、どうしても指示的、指導的なところがしみついているなと、授業を受けながら感じました。

テキストや授業で教えられた通り、受容とか共感とかしているつもりでも、傾聴までいきつかない、それでも講師の先生方のサポートで1度で資格を取得できました」

杉山「管理職の経験から、つい指導的になってしまうということはよくあることですね。
堀口先生はどうやって乗り越えていったんですか?」

堀口「そうですね。リカレントで学んだ一つひとつの学びが自分の人生とオーバーラップして、キャリア理論に興味を持って続けていけたことが大きいですね。最初に学ぶロジャーズの考え方、生き方がロールモデル的にお手本にもなりました。

実技的な面では、ロールプレイングを繰り返して、できているところ、できていないところを講師の先生からのフィードバックを通して自分の中で整理していけたのもプラスになったと思います」

杉山「学びあう、高めあう環境もよかったんですね」

堀口「リカレントは全課程を通学で学べましたし、一緒に学んだ仲間や講師の先生など学ぶ環境がとてもよかったと思います、当時一緒に学んでいた人たちとは今もお付き合いがあります」

杉山「よく言いますよね、戦友のような感じですよね。
現在の先生のモットーは「キャリアとメンタルの両面から働く人を支えること」だそうですが、キャリアからメンタルへとつながっていったのはどのような背景があるのでしょうか」

キャリアの知識とスキルだけでは足りない 
キャリアとメンタルの二軸で働く人を支援したい

堀口「資格を取得したら仕事につなげようと思っていて、はじめて仕事に就いたのがある相談機関でした。とてもやりがいを感じていたあるとき、

そこでインテーク面談(初回の相談業務)を行っていたんですが、その相談者の方に、突然、パニック障害の症状が出てしまったのです。震えや過呼吸の症状が出て、目の前の人が変わっていく様子を見て、どうすればよいのかわからない恐怖を感じたことがありました」

杉山「それは突然すぎて、どうしてよいかわからなくなりますね」

堀口「すぐに施設長さんを呼びに行き、薬を飲むためのお水を渡したのですが、恐怖のあまりに私の手が震えていたのを思い出します。
この時、相談業務の仕事を行うのであれば、メンタルの知識が絶対に必要だと感じ、何よりこういった時の初動の対応ができなければと思い、私はキャリアとメンタルの二軸で支援をしていきたいと思ったのです。

働くうちにメンタル不調になる方もいれば、もともとメンタル不調をもっている方もいます。職場の環境、人間関係が引き金になってメンタル不調が発症してくるケースも多いと感じます。それぞれの背景や状況は異なりますが、その方にとってのストーリーは、どれも同じように深刻だと思います」

うつ病は誰でもなる可能性があるもの
しかし休職すると居場所がなくなってしまう

杉山「私はもともと科学者だったのですが、研究だけではなく実務も行いながら、心、科学の研究を行っています。人間は社会的な動物なんですよね。自然環境や物理環境を生きているだけでなくて社会という環境を生きている。人間の脳は社会脳で社会的な刺激にすごく敏感なんですよね。

だから職場の評価とか環境とか、場合によっては自分と会社が一体化している人にとっては自社の社会的評価とか、そういうところを気にして、時にうれしくなり、時に気に病んでしまい、そういう時にメンタル不調になりやすくなる。特に社会的評価には苦しみますね。

人間の脳は社会的ランキングをつけてしまうような仕組みができており、上に行った人は下に行くことを恐れ、下にいる人は下に行ったことが心の苦痛になる。そういった背景からもメンタル不調が引きおこされてしまいます」

堀口「それは、苦しいですよね」

杉山「そうなんですよね。躁うつ病は内因性のものですが、うつ病は誰にでもなる可能性があります。
うつ病の発症アプリが起動すると最低でも2年、長くて10年くらい、多くは大体4、5年くらい回復までに時間がかかります。医師はうつ病について「うつは心の風邪です」と言うのですが、風邪のように簡単になるけれど風邪のように簡単には治らないものです」

堀口「一度うつ病になってしまうと、最低で2年、平均で4、5年必要というのは、当事者にとっても長いですね。復職支援をしていて感じられるのは、復職をとにかく「早く早く」という気持ちになっている方が多いです」

杉山「休職中でも企業によっては会社の中の等級制度により等級が下がっていくところがあるんですよ。

休職中でも在籍しているから人事考課で下がり続けていく。ご本人がなにも会社に貢献していないから仕方ないと割り切ってはいるんですけれどね」

堀口「頭では割り切っても、それじゃあ、という感じですよね」

杉山「そうなんですよね。早く回復するかどうかは、メンタル不調になった方へのサポート資源があるかどうかにかかっていますが、「心の風邪だから休みましょう」と医者に言われても、何年も休職となると、休んでいるうちに戻る場所がなくなってしまうという問題があります。

会社としても休んでいる人の席を空けておくわけにいかないですよね」

うつ病の治療と仕事の両立を。
その支援の担い手がキャリアコンサルタントに

杉山「そこで厚生労働省の方向性のひとつとして、メンタル不調になってしまった方の治療と仕事の両立支援の担い手を、心理職ではなく、キャリアコンサルタントに求めているのです。これからキャリアコンサルタントのやりがいも広がっていくといいなと思います。」

堀口「なぜ心理職ではなくキャリアコンサルタントが治療と仕事の両立支援の担い手として求められているのでしょうか」

杉山「心理学でうつ病になりにくい仕組みをつくろうとしましたが、心理学だけではあっという間に限界がきたのです。生き方、働き方から変えないとならないからです。

ただ一人の専門家が全てを補うことはできません。心理療法は医師など専門的な人が担当し、キャリアコンサルタントはキャリアコンサルティングやキャリアカウンセリングを行い、他職種と連携することが求められています。他職種がどんな仕事をしているかキャリアコンサルタントは知っておく必要があります」

堀口「なるほど。これからの国の方向性では、ますますキャリアコンサルタントには、キャリアとメンタルの統合的な支援が必要になりますね。今先生がおっしゃられたような両立支援をやられているキャリアコンサルタントの方がいらっしゃるんですが、先行切って活動されていますね」

杉山「これからも両立支援をサポートしていく方はますます増えていくでしょうね。

動機づけの方程式というのがあるのですが、方程式には『クライアントの立場』『主体的なキャリアづくり』『一緒に見つけるべき長期的な展望』が必要です。この3つが揃った時、この方程式をクライアントがどう描いていくか。それにはキャリアコンサルタントの専門性による支援が必要です。
キャリア理論の多くはこの方程式に対応しています」

堀口「これからのキャリアコンサルタントの役割はますます日本の社会に必要とされていきますね」

杉山「そうですね。幸せはみんなに広がる。自分が幸せにしているとみんなも幸せになる。そんな職場環境にしていくのが理想です。労働時間短縮が職場環境の改善ではありません。

信頼できる仲間とワクワクできる職場を作りたい。勤労で幸せになれる国民とそのための職場を作るのが私たちキャリアコンサルタントの役目です」

杉山崇先生、堀口恵子先生、ありがとうございました。

プロフィール

杉山崇
(Takashi SUGIYAMA)

写真右

リカレント スクール教務顧問
神奈川大学教授/1級キャリアコンサルティング技能士/臨床心理士

脳科学と心理学を融合させた次世代型の心理療法を開発・研究を行う。
うつ病研究、認知行動療法のトップランナー。臨床歴20年以上。著書は20冊以上。
講演、TV、雑誌などメディア実績も多数。

堀口恵子
(Keiko HORIGUCHI)

写真左

リカレントキャリアデザインスクール学校長
2級キャリアコンサルティング技能士、国家資格キャリアコンサルタント、メンタルヘルスマネジメント検定Ⅰ種。

キャリアとメンタルの両面から働く人を支えるをモットーに、リカレントキャリアコンサルタント養成講座講師、女性支援機関、人材ビジネス業界・リハビリ業界におけるキャリア形成支援、企業向けキャリア&メンタルヘルス研修講師等に従事。
ACCN(オールキャリコンネットワーク)東京支部支部長。

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