特集 Feature
リカレントの講師は全員、
業界の第一線活躍しているスペシャリストです。
そんな講師の方々にリアルなお仕事現場の話や今後の展望などをインタビューしました。
EAPをもっと中小企業にも広めていきたい。その想いからEAPサービス会社副代表に就任
ストレスチェックの結果を解説する舟木彩乃先生
リカレントメンタルヘルススクールの専任講師の舟木彩乃先生は、筑波大学の大学院でストレスマネジメントの研究をしながら、EAPサービス会社「株式会社メンタルシンクタンク」を設立。副代表を務めながら、8000人以上のカウンセリング、一般企業や自治体など100社以上のコンサルティングを行ってきました。さらにEAPコンサルタントとしても、幅広く活動をしています。そんな舟木先生にEAPサービス会社を設立した背景をはじめ、リアルなEAPのお仕事現場のお話をうかがいました。
うつ病と診断されると退職に。
そんな状況を変えていくための手助けがしたい
―舟木先生はEAPサービス会社の株式会社メンタルシンクタンクの副代表として、またEAPコンサルタントとして多彩な活動をされていらっしゃいます。
先生がEAPサービス会社を立ち上げることになったのは、どんな背景があるのですか?
「新卒で入社した企業では、人事部に所属し主に研修や採用を担当していました。その後、メンタルの問題などで休職する人や退職する人の面談等も任されるようになりましたが、当時の私も人事部も、メンタルヘルスに関する知識がほとんどないまま手探り状態で対応していました。
当時、私が所属していた人事部の考え方としては、うつ病などで休職した人は復職しても難しいだろうという判断から退職していくのが“普通”という風潮がありました。
しかし、そういう社員の方々たちこそ、まじめに仕事に取り組む方が多かったので、なんとか復職までできるような制度を会社に提案してきました。しかし、会社としてはそこに予算をかけることは難しかったのです」
―なるほど、まじめに勤務をしていても、うつ病と診断されてしまうと、退職せざるを得ないという状況が普通だったのですね。まじめな人ほど責任感が強く、オーバーワークをしてしまうケースはよくありますよね。
「そこで、まずは私だけでもカウンセリングなどの知識を身につけようと、働きながら心理学などの勉強を始めました。しかし、もっと心理学やカウンセリングを本格的に学びたいと、思い切って退職し、国家資格を中心とした産業心理学領域の資格を取得し、病院や学校、企業の心理職などに従事するようになりました。
当時、様々な企業とも関わりがあったので、EAPが働く人のメンタルヘルスに効果を上げていることは実感していました。今後、EAPは日本のメンタルヘルス対策の切り札になっていくはずだと考えていたのですが、EAPを導入できるのは大手企業だけでした。
そこで、中小企業でもEAPを導入できるような仕組みをつくり、多くの方が利用できるようにしたいと考え、株式会社メンタルシンクタンクの副代表を務めることになったのです」
―中小企業でもEAPが導入できるようにという想いからスタートしたのですね。
株式会社メンタルシンクタンクでは、実際にどのような仕事をしているのですか?
「わかりやすい一例としては、企業を対象としたストレスチェックテストを行うケースでしょうか。部署ごとの組織診断をしたり、結果や傾向をもとにフィードバックを行って、その部署や組織に必要な研修などを具体的に提案しています。」
ストレスチェックテストからわかる
企業のメンタルヘルスへの取り組み
―ストレスチェックテストの結果では、どのような点に注目しているのですか。
「実施したストレスチェックテストの結果を全国平均と比較し、具体的な改善案の提案を行います。全国平均よりストレスが低い場合は良い点を伝え、改善点は整備していくように提案しています。意外に思われるかもしれませんが、従業員のストレスが低い企業の方が、メンタルヘルス対策に熱心に取り組んでいる傾向があります。逆にストレスが高い企業の場合、あまりメンタルヘルス対策に力を入れていない企業が多いです」
―それは意外ですね。逆にいえば、ストレス対策に取り組んでいるからこそ、良い方向に循環しているともいえますね。
「そうですね。また、飲食店などに多いのですが、仕事にやりがいがあっても、立ち仕事のため腰痛に悩む方が多いなど、身体的な負担もあり、ストレスが高いというケースもあります。その場合は一般的なメンタルヘルスの研修等ではなく、ヨガなど体を動かす研修などもご提案し、実施しています」
―なるほど。テストの結果が出ているので、その企業にとって何が必要なのかがわかり、説得力がありますね。他には企業とどのような契約をされているのですか。
「EAPサービスの契約内容においては、契約期間や従業員数によってもメニューや内容も異なりますし、企業によっても様々です。契約期間においても1か月契約、3か月契約、1年契約などいろいろあります。また、クライアント企業の福利厚生メニューの1つとして、EAPサービスの契約をすることもあります。そのようなケースでは、契約したクライアント企業の従業員だけでなく、そのご家族にもカウンセリングを提供します」
― 企業により、実に様々なのですね。新規の企業とはどのようなきっかけで契約につなげていくのでしょうか。
「今までご縁のあった企業からのご紹介が一番多いです。それ以外では、ホームページなどのお問い合わせからということもあります」
―クライアント企業と仕事をする上で気をつけていることはありますか?
「提案する内容を企業の特色によって変えるようにしています。そのため、数か月に1回は今の提供プランが本当にその企業に合致しているのかどうかなど見直し作業をクライアント企業様と共有することにしています。」
写真:企業で使用するストレスチェックの用紙やマニュアルなど
EAPの仕事で得た知識や経験が
自分の人生も豊かにしてくれる
― 舟木先生のお話をお伺いしていても、EAPのニーズはこれからますます増えることがわかりますが、初心者でもEAPの仕事につくことができますか?
「初心者の方は、リカレントメンタルヘルススクールで開講しているカウンセリングやEAPのコンサルティングの知識があれば役立つと思います。月並な意見ですが、基本的には人の話を聴くことが苦ではない方、人の役に立ちたい思う方は向いていると思います。人事や法律関係などの経験があれば、より良いと思います。一方で、例えばずっと専業主婦業をされていたという方であっても、ベースとなる知識や意欲があれば、挑戦する価値があると思います。EAPでの相談は従業員の家族も多いので、従業員の奥様のママ友に関する悩みや育児などの相談では、今までのご経験を活かすことができるのではないでしょうか」
― 最後に舟木先生からメッセージをお願いします。
「EAPコンサルティングという仕事は、今までの人生や仕事で経験したこと、学んだことがいきる仕事だと思います。また、EAPの仕事で得た知識や経験が自分の人生も豊かにしてくれるとも思っています。
興味を持ったら是非チャレンジしてみてください」
― 舟木彩乃先生の著書
「首尾一貫感覚」で心を強くする
10/3発売 (小学館新書)
「首尾一貫感覚」という言葉は、医療、心理などの学界ではよく使われますが、一般にはあまり認知されていません。この概念をもっと多くの方に知っていただきたいと考えたことから発行されたのがこの著書だそうです。
書籍の中では、のべ8000人を舟木先生がカウンセリングしてきた事例より、首尾一貫感覚に例えるとどういうことなのかを解説しています。
首尾一貫感覚とは把握可能感・処理可能感・有意味感の3つの感覚からなります。
これは、ユダヤ人収容所でストレスフルな中、心身ともに健康に過ごせた人はどういった感覚があったのか、A・アントノフスキー博士が調べた結果、わかったことだそうで、把握可能感・処理可能感・有意味感とは何かをわかりやすく解説しています。
さらにどうやったら首尾一貫感覚を高められるか、認知行動療法とのかかわりも交えながらその方法論も紹介しています。
舟木彩乃先生より
「首尾一貫感覚は、別名「ストレス対処力」とも呼ばれています。悩みのある方はもちろん、“生きる意味”や“仕事をする意味”などを掘り下げて考えたいときもぜひ手に取っていただきたい一冊です。ここでいう「首尾一貫」という用語をもう少し噛みくだいて表現すると、「今、目の前にあることだけでなく、過去や未来、自分以外の周辺の世界をより広く俯瞰した場合に、全体として整っている状態」ということになります。人生において理不尽な出来事に遭遇したり、目の前に大きな壁が立ちはだかったときに、どう乗り越えるのか、そんなとき役立つヒントが詰まった本です」
プロフィール
舟木彩乃
(Ayano FUNAKI)
リカレントメンタルヘルススクール専任講師
APメンタルヘルスカウンセラー、EAPコンサルタント、キャリアコンサルタント
10年以上、一般企業や自治体、大学などのメンタルヘルス対策やキャリア支援の仕事に携わる。会社組織で働く個人が国のメンタルヘルス対策が奏功せずに疲弊し、従業員も企業も痛手を被っている現実を認識し、すべての企業が利用できるEAPサービスを継続的に提供するため、株式会社メンタルシンクタンクを設立し、副社長就任。ストレスマネジメントの研究者でもある。